【第2章】おひとり様HACCP|HACCPに対する誤解をほどく

おひとり様HACCP

――それは、本当にそこまで難しいものでしょうか。

第1章で触れたように、

HACCPが怖く感じる瞬間の多くは、

「自分の曖昧さ」に気づいたときです。

でも、その曖昧さの正体は、

実は“誤解”であることも少なくありません。

ここでは、その誤解を一つずつ、やさしくほどいていきます。


HACCP=7原則12手順、という思い込み

HACCPと聞くと、

分厚いテキストや、

「7原則12手順」という言葉を思い浮かべる方も多いと思います。

危害要因分析。

重要管理点。

モニタリング。

検証。

記録。

言葉だけ並ぶと、

それだけで少し身構えてしまいます。

確かに、これはHACCPの基本的な枠組みです。

そして中心にあるのが

「危害要因分析」という考え方。

難しく聞こえますが、本質はとてもシンプルです。

どこで事故が起こりうるかを、事前に考えておくこと。

実は多くの現場が、

すでにこれを実践しています。

生肉と加熱後の食品を分ける。

体調が悪いときは無理をしない。

冷蔵庫の温度を気にする。

これらはすべて、

危害を避けるための行動です。

つまり、

HACCPは突然始まるものではなく、

すでにやっていることを“整理する”考え方です。


制度はなぜ二段階になっているのか

2021年6月、改正食品衛生法が完全施行され、

原則としてすべての食品等事業者に

HACCPに沿った衛生管理が求められるようになりました。

これは国際基準との整合を図った流れでもあります。

食品は、すでに国境を越えて流通しています。

世界水準で安全を説明できる仕組みが必要になりました。

しかし同時に、

日本には小規模事業者が非常に多いという現実があります。

そこで制度は、二段階で設計されました。

この違いを知らないまま、

「全部やらなければいけない」と思ってしまうことが、

最初の大きな誤解です。

ここまでで少し難しく感じたら、いったん深呼吸してください。

制度は、あなたを追い込むためにあるわけではありません。

焦らなくて大丈夫です。いまは、全体像をゆっくり眺めるだけで十分です。


「基づく」と「考え方を取り入れた」の違い

大規模な製造業などでは、

7原則12手順に“基づく”本格的な仕組みが求められます。

一方で、小規模な飲食店や製造業では、

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が想定されています。

ここで大切なのは、

“簡単でいい”という意味ではない、ということ。

人が少ない。

工程が比較的シンプル。

記録に割ける時間が限られている。

そうした現実を前提に、

実行可能な形に整理されているのが

「考え方を取り入れた衛生管理」です。

制度は、理想論ではなく、

“続けられる形”を求めています。


なぜ小規模向けに整理されているのか

制度が二段階になっているのは、配慮があるからです。

実行できない仕組みは、続きません。

形だけ整えても、現場が回らなければ意味がありません。

私はこれまで、ISOの運用や厳格な衛生管理にも携わってきました。

そこでは詳細な文書体系や検証が求められます。

でも、それをそのまま

1人で営む現場に持ち込んだらどうなるでしょうか。

管理のための管理になり、

「お客様の安全」よりも

「書類を整えること」が前に出てしまう。

制度は、現場を苦しめるためのものではありません。

それぞれの規模や実態に合わせて、

続けられる形を選べるように設計されています。


手引書の本当の役割

多くの業界団体が、

小規模事業者向けの手引書を作成しています。

それは、

「この業態なら、ここを押さえればよい」

という目安を示すためのものです。

ただし、

手引書をそのまま写せば安心、

というものではありません。

大切なのは、

自分の現場に当てはめて考えること。

手引書は「正解」ではなく、

「考えるための土台」です。


自分はどこに当てはまるのか

ここでよくある疑問があります。

パン工房やお菓子工房は「菓子製造業」、

カフェやキッチンカーは「飲食店営業」に該当するケースが一般的です。

カフェなどの小規模な飲食店については、

厚生労働省が確認した

小規模な一般飲食店事業者向け手引書」が公開されています。

混乱しやすいのは、

営業許可の名称と、参考にする手引書の名称が

必ずしも一致しないという点です。

営業許可が「菓子製造業」でも、

参考にする資料が「パン類向け」であることは十分あり得ます。

「自分は対象外かもしれない」

そう感じていたとしても、

多くの場合、制度の中に含まれています。


記録の本当の意味

記録は、行政のためのものではありません。

万が一のとき、

自分の管理を説明できる状態にするためのものです。

問われるのは、

「完璧だったか」ではなく、

「何を考え、どう管理していたか」。

記録は、

自分の現場を守るための証拠になります。


国が求めていること

国は、

毎日何十枚もの記録を作れ、

難解なフローチャートを作れ、

分厚いマニュアルを整備しろ、

とは言っていません。

求められているのは、

  • 危害を理解していること
  • 必要な管理を決めていること
  • それを確認できる状態にあること

ここを取り違えると、

HACCPは重たい制度になります。

正しく理解すれば、

HACCPは

「当たり前を、説明できるようにする考え方」

に変わります。


要するに、こういうことです

お店の目線で言い換えるなら、

特別なことを全部やる、という話ではありません。

いま自分がやっていることを、

きちんと整理して、説明できるようにする。

それがHACCPの考え方です。

急に仕事を増やすのではなく、

当たり前を、見える形にする。

そう考えると、

少しだけ距離が縮まるのではないでしょうか。


誤解がほどけると、見え方が変わる

HACCPは、難しいから怖いのではありません。

「全部やらなければいけない」

と思い込んでいたから、重たかった。

制度を正しく見ると、

やるべきことは、実はそこまで多くありません。

ここまで読んで、

少し肩の力が抜けていたら、

この章の役割は果たせています。

このシリーズは、

ゆっくり積み上げていきます。

🔹シリーズのはじめから読む

はじめての方は、まずこちらからどうぞ。

▶︎おひとり様HACCP第0章

(制度の全体像と、このシリーズの考え方を整理しています)

▶︎おひとり様HACCP第1章

(HACCPが怖く感じる理由を整理します)

ほかの形式で読む

noteで読む

マンガで読む

電子書籍で読む


必要な方に、届きますように。


コメント

タイトルとURLをコピーしました