購入した食品に、髪の毛が入っていた。
食べていたら、ガリッと硬いものを噛んだ。
そんな経験はありませんか。
購入したお店や、ラベルに書かれている会社へ連絡したことがある方もいらっしゃるかもしれません。
購入した方に、商品やラベルなど、できれば残しておいてほしいものについても、この記事の後半でご紹介します。
では、その連絡を受けた事業者側では、何が起きているのでしょうか。
商品の名前を確認する。
表示された賞味期限や消費期限から、いつ作った商品かを調べる。
その日の製造記録や衛生管理の記録を確認する。
同じ日に作った商品は、ほかに問題がなかったか。
どの原材料を使い、どこへ、いくつ販売したのか。
一つずつ記録をたどり、何が起きたのかを確認していきます。
私は食品工場で、製造と品質管理の両方を経験してきました。お客様からのお申し出に対応し、記録を調べ、出荷前の製品を止めたことも何度もあります。
異物だけではありません。
変色、におい、温度管理、アレルゲン、期限表示、ラベルの貼り間違い。
食品に関するお問い合わせの入口は、いろいろあります。
この記事では、そうした連絡を受けたときに商品を後から追えるようにする、食品トレーサビリティについて考えます。
難しいロット番号や、高価な管理システムの話が中心ではありません。
小さなお店でも、今日から始められる形です。
「その商品、いつ、どんな状況で作ったか分かりますか?」
ここからは、食品を作って販売している方にお聞きします。
お客様から、こんな連絡が来たとします。
購入した焼き菓子に、髪の毛のようなものが入っていました。
その商品が、いつ作られたものか分かりますか。
その日に使った原材料や、製造時の衛生記録を確認できますか。
同じ商品を何個作り、どこへ販売したか分かりますか。
すぐに答えられなくても、決して珍しいことではありません。
小規模な現場では、製造、包装、販売、発送まで、一人または少人数で担当していることもあります。
毎日の仕事だけで精いっぱいです。
そのうえ、記録項目を増やし、複雑なロット番号を付け、何枚もの管理表へ転記する。
それでは、続かなくなるのも無理はありません。
食品トレーサビリティは、立派な書類を作ることが目的ではありません。
何かあったときに、必要な情報を後からたどれること。
まずは、それでよいのです。

食品トレーサビリティとは、食品の移動をたどれること
農林水産省は、食品トレーサビリティを「食品の移動を把握できること」と説明しています。
難しく聞こえるかもしれませんが、確認したいのは大きく三つです。
何を使って、いつ作り、どこへ販売したか。
問題が起きた商品から、使った原材料や仕入先へさかのぼる。
反対に、問題が疑われる原材料から、それを使った商品や販売先をたどる。
この両方向がつながっていれば、原因と影響する範囲を調べやすくなります。
専用システムでなければならないわけではありません。
紙の記録でも、ノートでも、Excelでも、スプレッドシートでも構いません。
大切なのは、記録が残っていて、必要なときに見つけられることです。
私が記録の大切さを感じるようになった理由
ここからは、私自身の経験です。
現在の現場では、生産指示書を使って管理しています。
製造する商品の指示書へ、使用した原材料のラベルを添付する。添付できない場合は、原材料名、入荷日、賞味期限などの識別情報を記載する。
何かあったときには、仕入れ業者へ問い合わせられる状態にしています。
製造前には、完成品へ貼るラベルをテスト発行します。
商品名、原材料、アレルゲン、内容量、期限、保存方法などが、これから作る商品と合っているかを確認するためです。
そこまで準備したうえで製造し、実際に使用した製品ラベルも記録として残しています。
最初から、この形ができていたわけではありません。
お客様から寄せられたさまざまなご意見やお申し出から学び、是正を重ねた結果、少しずつ現在の形になりました。
記録がなかったために、確認に苦労したこともあります。
異物や変色のお申し出があっても、製造時の状態を示す記録がなければ、こちらの工程で発生したものではない可能性が高くても、十分に説明できません。
冷蔵品や冷凍品なら、製造後、配送中、店舗での保管、購入後の保管など、いろいろな場所で温度変化が起こる可能性があります。
しかし、自分たちの管理記録がなければ、少なくとも自社では適切に管理していたと説明することも難しくなります。
記録は、お客様を守るものです。
同時に、自分たちを守るものでもあります。
一番よいのは、お客様へ届く前に止めること
トレーサビリティというと、事故やクレームが起きた後に使うものだと思われがちです。
もちろん、何か起きたときに製造状況を調べるために役立ちます。
しかし、現場で本当に大きいのは、出荷前の確認です。
食品工場では、品質管理担当者や責任者が製品と記録を確認し、問題があれば出荷を止めます。
私の経験でも、ここで製品を止めることは実際によくあります。
ラベルが違う。
期限の印字がおかしい。
原料原産地などの表示を確認できない。
製造記録に不明な点がある。
出荷してから回収するのと、お客様へ届く前に止めるのとでは、影響がまったく違います。
記録は、事故後に説明するためだけのものではありません。
出荷してよい商品かを、最後に確認するためのものでもあります。
最低限、「3つのまとまり」を残してみる
では、小さなお店では何を残せばよいのでしょうか。
項目を一つずつ並べると、それだけで難しく見えてしまいます。
そこで、最初は三つのまとまりで考えてみます。
実際に使った製品ラベル
商品へ貼った一括表示ラベルを、1枚残します。
ラベルを残すのが難しければ、スマートフォンで撮影しても構いません。
ラベルには、商品名、原材料、アレルゲン、賞味期限・消費期限、保存方法、製造者など、多くの情報が入っています。
製造日も印字している場合は、それも一緒に確認できます。
つまり、実際の製品ラベルを残すだけで、別々に書かなければならない項目をかなり減らせます。
ただし、ラベルの内容が正しいことが前提です。
製造前にテストラベルを発行し、作る予定の商品と合っているか確認する。そして、実際に使用したラベルを残す。
この二段階があると安心です。
使用した原材料が分かるもの
原材料の袋に付いているラベルには、商品名、賞味期限、製造番号など、その原材料を見分けるための情報が入っています。
使用した原材料のラベルを、製造記録へ貼る。
貼れなければ、写真を撮る。
それも難しければ、原材料名と賞味期限など、後から仕入先へ問い合わせられる情報だけを書きます。
アレルゲン情報は、原材料の規格書やラベルで確認できるようにしておきます。
新しい原材料へ切り替わったときは、どの製造分から使い始めたかが分かるようにします。
作った数と、販売した先・数
最後は数量です。
何個作ったか。
どこへ、いくつ販売または納品したか。
手元にいくつ残っているか。
これが分かれば、問題が疑われる商品がどこにあるのかを考えられます。
店頭販売やマルシェでは、購入した一人ひとりの氏名まで記録することは現実的ではありません。
その場合は、販売日、販売場所、販売数量を残します。
卸売なら、納品先と数量。
ネット通販なら、すでにある注文番号や発送履歴を使えます。
新しい台帳を増やすのではなく、今ある納品書、注文履歴、レジ記録を利用してください。

賞味期限・消費期限から、製造日と衛生記録へつなぐ
小規模な現場では、複雑なロット番号より、商品に表示した賞味期限・消費期限から探す方が分かりやすいことがあります。
お客様の手元にも、その表示が残っている可能性が高いからです。
例えば、お客様から次の情報を受け取ったとします。
商品名:チョコレートクッキー
賞味期限:2026年9月22日
この表示から製造記録を探し、製造日を確認する。
製造日が分かれば、その日の清掃、従業員の体調、アレルゲン管理、必要に応じて温度などのHACCP記録を確認する。
さらに、使用した原材料と、販売した数量・販売先をたどる。
この流れができれば、難しいロット番号を新たに作らなくても、基本的な追跡はできます。
表示した賞味期限・消費期限 → 製造日 → 当日の衛生記録・使用原材料 → 販売先
大切なのは、賞味期限や消費期限そのものではありません。
その表示を入口にして、製造日や記録へたどり着けることです。
異物だけではない。ラベルの間違いも回収につながる
食品の回収と聞くと、食中毒や異物混入を想像するかもしれません。
しかし、商品そのものに異常がなくても、表示の間違いによって自主回収が必要になることがあります。
例えば、アレルゲンの表示漏れ。
消費期限や賞味期限の誤表示。
保存方法の誤り。
食品を安全に食べるために必要な表示の間違いは、健康被害につながる可能性があります。
2018年の食品表示法改正により、アレルゲンや消費期限など、安全性に関わる表示に誤りがある食品を自主回収した食品関連事業者には、行政機関への届出が義務付けられています。
すべての表示ミスや、すべての自主回収が一律に届出対象となるわけではありません。しかし、対象となる回収情報は国のシステムへ集約され、商品名、事業者名、回収理由などが一般に公開されます。
消費者庁が2026年5月に公表した最新の集計によると、2025年度(2025年4月1日~2026年3月31日)に、食品表示法に基づいて届け出られた自主回収は1,745件でした。
自主回収が発生した原因として、ラベルを作成する際の誤入力や入力漏れ、ラベルの貼り間違いが上位を占めています。
決して、めったにない話ではありません。
小規模事業者や個人事業主だから、表示の責任がなくなるわけでもありません。
お菓子、パン、弁当、ジャムなどを包装して、店頭、マルシェ、ネット通販で販売する場合も、一括表示を正しく作り、商品とラベルが合っているかを確認する必要があります。
だから、実際に使用した製品ラベルを残します。
どの表示を付けて販売したのかが分かれば、お問い合わせ時の確認だけでなく、万一の回収範囲を考える手掛かりにもなります。
表示ミスが分かった場合は、自分だけで届出の要否を判断せず、所管の保健所などへ早めに相談してください。
参考:消費者庁「食品表示リコール情報及び違反情報サイト」、消費者庁長官記者会見要旨(2026年5月14日)
原材料だけではない。食品に触れる包装資材も確認する
食品の安全を考えるとき、確認するのは原材料だけではありません。
商品を入れる袋、カップ、トレーなど、食品へ直接触れる包装資材も食品安全に関係します。
包装資材には、形を保つ、熱に耐える、劣化を防ぐなどの目的で、さまざまな物質が使われています。それらが食品へ移る可能性も考えなければなりません。
そこで、食品へ直接触れる合成樹脂製の器具・容器包装には、「ポジティブリスト制度」が設けられています。
簡単にいえば、安全性を評価したうえで使用できると定められた物質を使って、器具や容器包装を製造する仕組みです。
以前は、使用を制限する物質を定め、それ以外は原則として使用できるという考え方が中心でした。しかし、それだけでは海外で使われている物質や新しい物質へ十分に対応しにくいという課題がありました。
そのため、原則として「使ってよいもの」を定める仕組みへ変わりました。制度は2020年6月に施行され、5年間の経過措置を経て、2025年6月から完全施行されています。
食品事業者は、対象となる器具・容器包装について、制度へ適合したものを使用する必要があります。
とはいえ、小規模な食品事業者が、最初から包装資材の使用ロットまで製品と細かく紐づけるのは、負担が大きいかもしれません。
まずは、使用する包装資材の種類をできるだけ増やさない。
信頼できる仕入先から購入する。
そして、対象となる資材について、ポジティブリスト制度への適合を確認できる書類や情報を仕入先から入手し、保管する。
小規模な現場では、この形がシンプルで続けやすいと思います。
一方、ISO 22000などの認証、取引先からの要求、自社のリスク評価によっては、包装資材の使用ロットまで製品と紐づける必要があります。
自社に必要な管理レベルは、すべて同じではありません。
ポジティブリスト制度については、過去の記事で詳しくまとめています。使用している袋や容器が対象になるのか分からない方は、「2025年6月スタート『ポジティブリスト制度』 カフェや飲食店ではどうすればいい?」もあわせてご確認ください。

参考:厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
お客様から連絡するとき、残してもらえると助かるもの
ここで、もう一度、購入した側の話へ戻ります。
商品に異物が入っていたり、いつもと違うにおいがしたりしても、お店へ連絡することにためらう方もいると思います。
厳しく言いたいわけではない。
お店を困らせたいわけでもない。
このくらいで連絡してよいのだろうか。
そう感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、企業にとって、お客様からのご意見やお申し出は、厳しいだけのものではありません。
大切な情報であり、改善のための資産です。
連絡をいただかなければ、同じことがほかの商品でも起きている可能性に気づけないことがあります。
もし連絡していただける場合は、可能な範囲で次のものを残しておいてもらえると、事業者は調査しやすくなります。
- 商品そのもの
- 異物と思われるもの
- 包装と一括表示ラベル
- 購入日、購入場所、注文番号
- レシートや購入履歴
- 開封時や保管時の状況
- 商品や異物の写真
もちろん、すべて揃っていなくても構いません。
ラベルが破れていることもあります。
現物を捨ててしまっていることもあります。
購入日を正確に覚えていないこともあります。
企業では、そうした一部の情報が欠けた状態からも調査します。
だからこそ事業者側は、商品名、期限、販売日、販売場所など、残っているわずかな情報からでも製造記録へ近づける仕組みを考えておく必要があります。
お客様が情報を伝え、事業者がきちんと調べて回答する。
その積み重ねが、より安全で安心できる商品につながっていくのだと思います。

Q&A|小さなお店のトレーサビリティ
Q.同じ賞味期限の商品を、別の日にも作ることがあります
例えば、8月21日と8月22日に製造した商品を、同じ期限で管理する場合です。
複数の製造日の商品を同じ期限で管理する場合は、それぞれの製造日を基準に、根拠をもって設定した期限のうち、安全側となる短い方へ合わせます。
ただし、同じ期限を表示すると、期限だけでは製造日を一つに特定できません。製造記録は日ごとに分け、販売日、販売場所、注文番号など、ほかの情報と組み合わせて、どちらの製造分か確認できるようにしておきましょう。
可能であれば、表示された期限から製造日を一つに特定できる運用の方が、日々の管理もお客様対応もシンプルです。
Q.ロット番号を付けなければいけませんか?
一般食品のすべてについて、小規模事業者が独自の複雑なロット番号を付けなければならない、という話ではありません。
賞味期限・消費期限や製造日を手掛かりに、使用原材料と販売先まで追えるなら、それが現場で使える識別方法になります。
ただし、同じ表示期限の商品を複数日に製造する、同じ日に原材料を途中で切り替えるなど、一つに区別できない場合は、製造日や製造回を加えて管理します。
Q.記録用紙を新しく作らなければいけませんか?
必要な情報を後から確認できるなら、必ずしも専用用紙である必要はありません。
製品ラベル、原材料ラベル、納品書、レジ記録、注文履歴、HACCP記録など、すでにあるものを使えます。
ただし、保存場所と探し方は決めておきましょう。
Q.記録はいつまで残せばよいですか?
すべての食品について、一律に同じ保存期間が決められているわけではありません。
商品の賞味期限・消費期限、製造から販売までの期間、販売後にお問い合わせが来る可能性などを考え、自社で保存期間を決めます。
少なくとも、商品の期限が過ぎた直後に記録を捨ててしまう運用は避けましょう。期限後に、お客様からご連絡をいただくこともあるためです。
厚生労働省の記録保存に関する指針では、保存期間を設定することが難しい場合の参考として、製造・加工・流通段階では、販売後1~3年間が示されています。ただし、これはすべての商品へ一律に適用される法定保存期間ではありません。
HACCPの記録については、使用している業種別手引書や所管保健所の案内も確認し、関連する製造記録と保存期間をそろえておくと探しやすくなります。
Q.飲食店の料理も、この記事の対象ですか?
この記事では、イートインで提供する料理そのものではなく、飲食店が店頭や通販などで物販する包装食品を主な対象にしています。
焼き菓子、ドレッシング、瓶詰、持ち帰り用の加工食品などを販売している場合は、今回の考え方を参考にしてください。
まずは、次の製造から1枚残してみる
トレーサビリティを始めようとして、最初から完璧な管理表を作る必要はありません。
複雑にしないこと。
記入する項目を増やしすぎないこと。
そして、続けられること。
ここが一番大切です。
まずは、次に作る商品から始めてみてください。
実際に使用した製品ラベルを1枚残す。
使用した原材料のラベルを貼るか、写真を撮る。
製造数と販売先・数量を残す。
そして、表示した賞味期限・消費期限から製造日を探し、その日の衛生記録へたどれるか、一度試してみます。
うまくたどれなかった場所があれば、その部分だけ直せばよいのです。
記録は、多ければ多いほどよいわけではありません。
必要なときに、必要な事実へたどり着けること。
お客様へ、分かっていることを早く伝えられること。
そして、問題があれば、お客様へ届く前に止められること。
小さなお店を守るトレーサビリティは、そこから始まります。
※本記事は、一般的な制度と食品製造現場での経験をもとに整理したものです。商品、製法、販売方法、営業許可・届出、自治体の運用などによって必要な対応は異なります。表示ミス、健康被害、異物混入、自主回収などが発生した場合は、所管の保健所や関係行政機関へご相談ください。
参考資料
- 農林水産省「トレーサビリティ関係」
- 厚生労働省「食品等事業者の記録の作成及び保存について」
- 厚生労働省「HACCP(ハサップ)」
- 厚生労働省「自主回収(リコール)報告制度に関する情報」
- 消費者庁「食品表示リコール情報及び違反情報サイト」
- 消費者庁長官記者会見要旨(2026年5月14日)
- 厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
リンク集
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